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リーダーシップの旅に出ている彼。 『社会の役に立ちたい』 もがく、とある日本の若者。不定期に書評とか戯言とか。

【書評】アルケミスト~夢を旅した少年 レビュー

 

読書録も始めてみようかと。

まず初回は、こちら。

 

アルケミスト―夢を旅した少年 (角川文庫―角川文庫ソフィア)

アルケミスト―夢を旅した少年 (角川文庫―角川文庫ソフィア)

 

■印象的なフレーズ

「世界最大のうそって何ですか?」と、すっかり驚いて、少年は聞いた。「それはこうじゃ、人は人生のある時点で、自分に起こってくることをコントロールできなくなり、宿命によって人生を支配されてしまうということだ。それが世界最大のうそじゃよ」(P24)

 

 多くの大人を見ていると(自分を含め)、いろんな理由を付けて、子供の頃の夢や希望、人生を懸けて臨んでみたいと思っていたことについて、年が経つにつれ徐々に足を遠ざけて行くように感じる。

 その性質について、本文中では「誰でも若い時は自分の運命を知っているものだ。まだ若い頃は、すべてがはっきりしていて、すべてが可能だ。夢を見ることも、自分の人生に起こってほしいすべてのことにあこがれることも、恐れない。ところが、時がたつうちに、不思議な力が、自分の運命を実現することは不可能だと、彼らに思い込ませ始めるのだ。」(P26という形で、誰でもおこりうる、ある意味神秘的な状況であると語っている。そして、その神秘的な状況に陥った人間は、「今の生活に慣れきっている。(中略)何も変えたくない。どうやって変化に対応していいか分からない」(P69)となってしまうわけだ。

 このような性質は普遍的なものであり、誰もが自分の人生を自分自身だけではコントロールできなくなる、ということ自体そのものを「世界最大のうそ」と称した。

 そして、この不思議な力について、このように述べている。「その力は否定的なもののように見えるが、実際は、運命をどのように実現すべきかお前に示してくれる。そしてお前の魂と意思を準備させる。この地上には一つの偉大な真実があるからだ。つまり、お前が誰であろうと、何をしていようと、お前が本当に何かやりたいと思うときは、その望みは宇宙の魂から生まれたからなのだ。それが地球におけるおまえの使命なのだよ」「…『大いなる魂』は人々の幸せによってはぐくまれる。そして、不幸、羨望、嫉妬によってもはぐくまれる。自分の運命を実現することは、人間の唯一の責任なのだ。すべてのものは一つなんだよ。おまえが何かを望む時には、宇宙全体が協力して、それを実現するために助けてくれるのだよ。」

 つまり、自分で自分を信じ込ませようとする「不思議な力」は、地球から与えられた使命であり、自分の運命はどのようなものであるか、示してくれる一つの鍵である、といっている。今の生活に慣れてしまったことも、運命へのひとつのヒントであるし、この「世界最大のうそ」を理解することで、自分にとっての「やりたいこと」「望み」への進路を見いだす機会になっている。自分が今どういった状況に置かれているのか、地球・宇宙目線にたって考えてみる余裕を持っていきたいと感じたフレーズであった。

 

 2つ目の着目点は、★「私は食べている時は、食べることしか考えません。もし私が行進していたら、行進することだけに集中します。もし私が戦わなければならなかったら、その日に死んでも私はかまいません」(P101)という箇所である。他にも「私は過去にも未来にも生きていないからです。私は今にしか生きていません」といった表現もあった。

 

 ここから受け取ったメッセージは、「今日を本気で生きろ」というものである。スペインには「明日できることは今日やるな」ということわざもあるそうだ。今日という日を大切にし、今日しかできないこと・考えられないことこそを、今日行う。明日できることを今日やる「不精」のことを指していると捉えた。もし、毎日忙しいと思ったり、満足のいく一日を送ることができていないとしたら、それは、「今日自体が充実していない」ということなのであり、今日というかけがえのない一日を無駄に過ごしてしまっているということである。無駄にしたと感じる今日という一日があるということは、時間をそして人生を大切に生きることができていないということなのだ。つまりは、不精、怠けて生きているということになる。自分の人生において、今日という日は一回しかない。至極当たり前のことではあるが、今日という日は常に一回きりである。自分にとってだけでなく、家族・友達・仕事などでお世話になっている人に対しても、今日という日は一度きり。その一度きりという今日を大切にすることこそ、人生を大切に生きるのではないか、と考えるヒントになった。

 一方、全く逆の慣用語として「今日できることを明日に延ばすな」という言葉がある。ベンジャミン・フランクリンの言葉として有名であるが、彼は「今日できることを明日に延ばすな。いつかという言葉で考えては失敗する。今という言葉を使って考えれば成功する。」という風に、常に今を大事に、怠惰に生きるな、という若い人、元気な人、忙しい人への戒めの言葉だと感じる。怠けると後が苦しくなるぞということであり、先んずれば人を制すということでもある。

 いろんな状況に応じて、意識すべきことは変わっていくものの、「怠惰・不精である」ことの不埒さは常に意識したいところである。

 

 最後に印象的だったのは、★「目はその人の魂の強さを示す」(P161)という箇所である。「目はその人の魂の強さを示す」という言葉は錬金術師が言ったものだ。

 元来「目は口ほどにものを言う」と言うが、人の心・魂に強い意思があれば、その目から伝わる意志は相手に届き、言葉だけでなく、その想いまでを感じることができる。裏返しとして、自分の発言や原動に自信やしっかりとした強さがない時、人は相手の目を見て話す事ができない。

 不思議と、自分の伝えたい事がはっきりしていればいるほど自然と目は相手にまっすぐ向いていることが多い。私自信、営業時代、特に入社した手の頃は、自分にも自分の商品にも理解や自信がなかったためか、相手をしっかり見れていないことが多かった(ような記憶がある)。そんなとき、クライアント様は一瞬でそのことを判断できたはずである。クライアント様には、すべて「目」を通じて、お見通しだったのだろう。当時の自分の「目」は恥ずかしくて想像もしたくないものだ。

 また、自分の持つ目線は「信用」にも繋がると感じている。「よそよそしい」のは目からも分かってしまうし、目が泳いでいる人、目に力を感じない人はどこか安心感を感じられない。

 本文においても、結果を求める錬金術においては、意思はどのような状況でも大事な要素のひとつと考えられているようだ。自分自身も、目に自信が持てるような準備と努力をきちんとし続ける日々を過ごしたいものだ。

 

 

 ■総評

 

 前提として、本著について、前評判の格別の高さとは裏腹に、期待相応に感銘できる著書にならなかった。翻訳が原因なのかもしれないが、ストーリーの途中からリアリティが失われ、神秘的な描写が多くなり、大金を得るといったハッピーエンドも通俗的な幸福で、あまりピンとこなかった。文化的・宗教的な知識がなかったからか、すんなりと入ってこない部分もあった。

 一方で、羊飼い、ピラミッド、大いなる魂、砂漠、戦争、と言った、多義性を帯びた言葉が本文中には並び、「この言葉は何を象徴するのか」と考えながら読むことで、楽しみながら読めたことは確かである。読み手のフェーズによっていろんな解釈ができるだろうと感じた。だからこそ、①の設問で3カ所とあるものの、それ以上に名言となる言葉がいくつかあったことは確かである。

 

 本書から啓発されたこと、人生における普遍的な原則は、大きく3つあると捉えた。

1つ目は、「夢を抱き続けること、その夢に向かって行動しつづけることの大切さ」、2つ目は、「今を本気で生きることの大切さ」ということ。そして、最後は「自己の成長とは、個での内省と人との協力なしには得られない」ということ、この3つである。特に最初の2つは、実際的には同じようなことを行っているようで、背景や意識した後の行く末は全く異なる。

 一人の羊飼いの少年が幾多の苦難や困難を乗り越えて自分自身の魂の道を歩き通し、夢を叶える物語が描かれている本作品。作品中でも如実に描かれているように「自分自身の魂の道を歩む」ことには、並大抵ではない苦難や困難がつきまとう。しかし、この魂の道こそが、真の救済への道であることも確かのようだ。一人の羊飼いの少年の冒険を通して、人間にとって最も大切な「自分自身の魂の道を歩く」ことを描かれた世界である

 そんな中で、夢を抱き続けることの大切さは、至る所で語っている。「らくだ使いは、どんな状況の時に神様は将来を見せてくれるのかたずねた。神様はほんの時たまにしか、将来を見せてはくれぬ。神様がそうする時は、それはたって一つの理由のためだ。すなわち、それは、変えられるように書かれている未来の場合だよ。」

 自分がこうなりたい!こうしたい!こう生きたい!と夢を持つ時、人は心の中にその情景を思い浮かべる。それは叶えられないものではなくて、叶えられるものだからこそ神様はそれを見せている、といっている。前述しているが、「誰でも若い時は自分の運命を知っているものだ。まだ若い頃は、すべてがはっきりしていて、すべてが可能だ。夢を見ることも、自分の人生に起こってほしいすべてのことにあこがれることも、恐れない。ところが、時がたつうちに、不思議な力が、自分の運命を実現することは不可能だと、彼らに思い込ませ始めるのだ。」という風に、夢を意識し続ける、持ち続けることの難しさは理解している。「結局、人は自分の運命より、他人が羊飼いやパン屋をどう思うかという方が、もっと大切になってしまうのだ。」という風にも述べ、自分の夢に集中することが、どれほど難しく、どれほど苦しいものなのか、ストーリーの中でも至る所で伝えてくる。一方、だからこそ、夢に向かって行動することは尊いものであり、人生を懸けて臨むべきものなのである、ということも合わせて伝えたいのではないかと感じてしまう。人生の目的にもなる「夢」を追いかけることに、人生の意味を見いだしている作品であり、自問自答を促すいい機会になった。

 本文中で、「未来」について、このように述べている。「人がわしに相談に来る時、わしは未来を読んでいるわけではない。未来を推測するだけだ。未来は神に属している。未来がわかっているのは神様だけだ。神様が未来を明らかにするのは、特別の事情がある場合だけだ。どうやって未来をするのかだって?それは現在あらわれている前兆をもとに見るのだ。秘密は現在に、ここにある。もしおまえが、現在によく注意していれば、お前は現在をもっと良くすることができる。そして、お前が現在を良くしさえすれば、将来起こってくることも良くなるのだ。未来のことなど忘れてしまいなさい。そして、神様は神の子を愛していると信頼して、毎日を神様にそって生きるがよい。毎日の中に永遠があるのだ。」

 

 運命に従って、日々生きることによってしか自分の描いた未来を現実には出来ず、人生のかしこにある前兆を意識し、前兆に従って自分を変えていくことが、自分の夢に集中することを同意義になると述べている。そして、本文に登場する王様は主人公の少年に「自分の運命を生きてさえいれば、知る必要のあるすべてのことを、人は知っている。しかし夢の実現を不可能にするものが、たったひとつだけある。それは、失敗するのではないか、という恐れだ。」と述べ、「もし(命がけの賭けで)僕が失敗したら・・・」という少年に「そのときは、お前は夢を実現する途中で死ぬのだ。自分の運命が何か知りもしない何百人よりかは、ずっと良い死に方だ。しかし、心配することはない。普通、死の脅威は、自分の人生について、人に多くのことを気づかせてくれるものだ」とも語っている。つまり、今を懸命に生きながら、夢を確実に意識し続け、日々を十二分に過ごすことによってこそ、最高の人生の過ごし方であり、仮に道半ばで夢を追い続けることを断念することになっても、それも含めて、自分の人生である、と問うている。

 「夢を抱き続け、その夢に向かって行動しつづけることの大切さ」を理解しつつも、「今を本気で生きる」ということによってのみ、自分の描いた最高の人生が開けてくるのだと、改めて実感できる。

 また、著書を通じ、この幾度となく試練を乗り越え成長をしていった主人公にとって、「成長」の鍵を握った考え方があると、感じた。ひとつは「自分の素直な心の声に耳を傾け、それを受け入れる」ことが成長の始まりであるということ。いろんな出来事を通じて、他社からの受け売りだけではなく、自己で内省をしっかり行い、その出来事を自分のモノにしていくことを重ねることが、成長に繋がっていく。

 もうひとつは、人と協力せずして、苦難を乗り越えることは出来ない、ということである。旅の途中で知り合った人から手助けをしてもらったり、たまたま同行することになった仲間と一緒に困難を乗り越えていく描写があるが、彼らとの出会いを通じ、少年は新しい気付きや、思ってもみなかった行動に転ずることとなる。人は何かを成す為には、他の人から助けを求めたり一緒に協力していくことで、初めて実現不可能とも思えるような壁を乗り越えていける。裏を返せば、苦難を乗り越えていくときは、いつも誰かの協力があってこその賜物であり、そのことに自分は気付いているだろうか、という自問にも繋がる。

 

 少年の「夢に向かっていく心の強さ」と「未来に向かっていく誠実さ」は、自分にとって学ぶべきことであると痛感した。

 

 「一度起きたことは二度と起こらない。二度起きたことは必ず三度起きる」というアラブのことわざどおり、旅の途中、三度も苦労して築き上げた全財産を失った少年。その都度、命の危機にさらされた。しかし、夢を諦めず前に進む少年には、必ずその先々で新たな出会いがその身を助け、彼を確実に成長させ、豊かな人生を切り開いていった。彼のような強い心と、それを支える周りの空気には、そことなく憧れを感じる。また、いつも最後に自分を助けてくれたのは、自分の中にあるものだったのだ。王様が言っているとおり、人生の宝物は、意外に自分のすぐ近くにあるのかもしれない。

 天が与えるひらめきというものは、時に信じられないほどの遠回りをさせることがあるということも理解ができる。そして、そこで待ち受ける試練の一つ一つは決して楽なものではない。しかし、そこには必ず夢に笑顔で出会うためのヒントが隠されているのだろう。命ある限り、自分の心次第で自分の人生はいかようにも、素晴らしく描いていけるのだろう。『今からでも、遅くない』そんなことを心に伝えてくる著書であった。

 

 また時間を空けて、読んでみたいと思う。