【書評】 機械との競争
5月読書会の課題図書。
内容自体は総論的ではあるが、ここから派生する不確実な未来に向けた備え、をテーマにすると途端興味深いディスカッションテーマに変貌する。
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【作者紹介】
●エリック・ブリニョルフソン(Erik Brynjolfsson)
サイエンティスト。著書に“Enterprize 2:0"。
【本書の要旨】
・アメリカにおいて、なぜ景気が回復しても失業率がそれに比して下がらないのかという問題意識を前提に、
その理由として、技術の進歩が早すぎて人々が付いていけないという「雇用の喪失」説を主張・検証するのが本書。
・テクノロジーの進展が指数関数的で、次の仕事を創造して労働者をシフトさせどる時間がないために、失業してしまう、という問題。
・それは「デジタル技術の加速」のため。生産性の向上をもたらしたが、ついていけない人々を振り落としてしまった。
ある人たちは多くのものを得て、別の人たちは少ないものしか得られずに終わる。それが過去15年に起きたこと。
国全体の富は増えたが、多くの人にとって分け前は減った。
【本書の内容メモ】
第1章:テクノロジーが雇用と経済に与える影響
・彼らは技術革新のペースがスローダウンしたからだと主張するが、私たちはペースが速くなりすぎて人間が取り残されているのだと考える。
言い換えれば、多くの労働者がテクノロジーとの競争に負けているのである(p.20,21 アメリカ経済の停滞原因についての議論)
・最も重要な生産要素としての人間の役割は減っていく運命にある。
ちょうど農業において、トラクターの導入によって馬の役割が最初は減り、次いで完全に排除されたように(レオンチェフ)
・アメリカではディスカバリーと呼ばれる証拠開示手続きにより公判前に双方が証拠を開示し、
そのレビューを人手で行っているが、これをデジタル技術に移行すれば、弁護士一人で従来の500人分の仕事をこなせるようになる。
・人間がしかるべき比較優位を維持できるものは何だろうか。いまのところ人間がまさっているのは、じつは肉体労働の分野である。
人型ロボットはまだひどく原始的で、こまかい運動機能はお粗末で、階段を転げ落ちたりする。
したがって、庭師やレストランのウェイターがすぐに機械に取って代わられる心配はなさそうだ。
・肉体労働の多くが実際には高度な知的能力をも必要とする。
たとえば配管工や看護師は一日中パターン認識能力や問題解決能力を要求される仕事だし、看護師の場合には患者や同僚との複雑なコミュニケーションも仕事のうちである。
・人間は非線形処理のできる最も安価な汎用コンピュータ・システムである。
しかも重量は70キロ程度しかなく、未熟練の状態から量産することができる(NASAの文書)。
・2004年、詳しい調査に基づいて書かれた本では、車の運転は高度なパターン認識に基づいており自動化はできない、と主張されていた。
しかしわずか6年後の2010年、グーグルは自動運転車による1600キロの自動走行に成功する。
そのほか、機械による自動翻訳や、高度なコミュニケーション能力を有するコンピューターなどが紹介されているが、
ひとむかし前には人間にしかできないと考えられていた分野においてさえ、コンピューターによる侵攻が進んでいることが分かる。
第3章:創造的破壊~加速するテクノロジー、消えてゆく仕事
・技術の進歩は、すべての人の所得を自動的に押し上げる上げ潮のようなものではない。
富の総量が増えたとしても、勝ち組と負け組ができることはありうるし、むしろそうなることの方が多いのである。
しかも負け組の方が少ないとは限らないのだ。(中略)労働人口の90%が負け組になることだってあり得る。
・多くの研究で、スキルの高い労働者に対する相対需要の増加は、技術の進歩とりわけデジタル技術の進歩と密接に相関すると報告されている。
・スキルと賃金の関係が、最近になってU字曲線を描き始めたという。つまりここ10年間、需要が最も落ち込んでいるのは、スキル分布の中間層なのである。
最もスキルの高い労働者が高い報酬を得る一方で、意外なことに、最もスキルの低い労働者は、中間的なスキルの労働者ほど需要減には悩まされていない。
・帳簿の記帳、銀行の窓口係、工場の半熟練工などの仕事は、庭師や美容師や介護ヘルパーの仕事より自動化しやすい、ということだ。
つまり身体の動きと知覚をうまく組み合わせる必要のある肉体労働は、基本的な情報処理よりはるかに自動化しにくいことが過去25年間に判明している。
第4章:ではどうすればいいか
・所得の再分配をすれば、不平等の物質的なコストは改善されるだろうし、それ自体は悪いことではないけれども、
経済が直面している問題の根本原因はすこしも解決されない。再配分すれば失業者の生産性が上向くわけではないのだ。
・住宅ローンへの巨額の補助金は打ち切るか、大幅に削減すべきである。
このコストは年間1300億ドルを上回っており、この分を研究や教育に充当すれば、はるかに大きな成長が見込める。
なるほど持ち家にはさまざまなメリットがある、その一方で、労働者の移動性や経済の流動性にとってはマイナスである。
これは流動性が求められている現在の状況に反すると言わざるを得ない。
・★P130~著者からの提言
・本書では「組織革新の強化」「人的資本への投資」の2つが重点的に論じられている。
労働者が機械と競争するのではなく、機械を味方につけて疾走するためにはどうしたらいいのか。
第5章:結論-デジタルフロンティア
・デジタルフロンティアは私たちを明るくしてくれる
・第三の産業革命がはじまっている。コンピューターとネットワークだ。
【読後感想】
・ありきたりと言えばありきたりな論であるが、それらを実証的に分析したところは説得性が高い著書
・組織をどう変えるかが経営や人事としては読みごたえがあった?