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リーダーシップの旅に出ている彼。 『社会の役に立ちたい』 もがく、とある日本の若者。不定期に書評とか戯言とか。

【書評】ダントツ経営

 

 本日はブックレビュー。経営書。

 

ダントツ経営―コマツが目指す「日本国籍グローバル企業」

ダントツ経営―コマツが目指す「日本国籍グローバル企業」

 

 

日本企業としては、グローバル化に大きく成功しているといえる、コマツ

そのコマツ社における坂根氏の物語のはじまりは、2001年、ちょうど会社創立80周年の年、会社始まって以来の巨額赤字を計上した時に、坂根氏はコマツの経営のバトンを引き継いでいる。

本書の中で感じる小松氏の経営観の特徴としては、危機を乗り越えるには、現実を直視し、経営の構造改革に踏み切るしかないと語る節から、見て取れる。

 坂根氏は、社長就任時、コマツは赤字転落、子会社が300社あり、本業とは関係ない多くの事業会社を持つ、大変固定費の高い、贅沢なコングロマリット企業であった。

彼の最初の仕事は、大きな構造改革。2万人いた社員の内1100人を削減し、300社あった子会社を110社削減、市場NO1またはNO2以外の製品からの撤退、販売が国内のみの製品・事業群の売却を行っている。日本企業における「雇用」は絶対不可侵領域に近い意味を持つことや、市場NO2以下であっても売上の期待できる事業・製品から撤退、売却することは一時的な売上ダウンにも直結することを踏まえると、これは大変に勇気のいる、またトップダウンでしか意思決定できない類の勝負ばかりであっただろう。

 主に本書では、経営危機に陥った期間からグルーバル化を推進していくときまでの意思決定を詳細に記載しているのだが、そこから学ぶことは多い。それは、

 A)海外事業の経営の舵取りは現地に任せる

 B)企業の競争力はコストの使い方で見えてくる

 C)基幹部品は国内で開発と製造を一体化し推進する

 D)強みを磨くことが最も重要である

という4点と考える。

 

■坂根氏にとってのシンプルな経営戦略

 坂根氏からの学びをまとめる上で、坂根氏の実施したことを見返しておきたい。本書で述べられている、彼の実施したことは大きく4つある。

(1)「一回だけの大手術」を社内外に宣言し

(2)経営の見える化

(3)成長とコストの分離

(4)コマツの強みを磨く

という旗印を立てて、構造の改革に着手している。経営改革を断行し「右肩上がりを前提にしない経営」を確立。さらにはグローバル化を進め、売上高の7割を新興国市場で稼ぎ出す体制にした。「世界で勝てる製造業」への取り組みを成果に繋げていった。

(1)について、この大手術とは、希望退職の呼びかけと、子会社への出向者1700人を転籍させたことを指している。雇用が過剰だと危機感は生まれにくい。一方、何度も繰り返せば社員の働く意欲が失われるため、「一回だけの」と限定し、断行した。

(2)についてはステークホルダーへ会社の状況を伝え、改革の協力を仰ぐためにも、自社の状況を正しく理解するため、様々な指標を数値化し、見える化を推進した。そのため、国内の全工場を回り、会社の現状と課題を坂根氏の口から説明することにもつながった。また経営の透明性と健全性を高めるため社外取締役をメンバーに加え、社外の有識者からアドバイスを受ける場としてインターナショナルアドバイザリー・ボードも設置するなど、経営の見える化に対して、とても注力をされている。

(3)についてはこれまでの「成長すればコストは吸収できる」という考え方を改め、両者を切り離してまず徹底的にコストの削減に着手している。具体的には、前述の希望退職者を募り、大幅な子会社の整理統廃合を行ったり、300もの子会社を統廃合により110社削減することを行った。

(4)については、コスト削減が守りの改革であるのに対し、「強みを磨く」ということは成長のための攻めの改革である。そこで打ち出しているものが「ダントツ商品」の開発である。「ダントツ商品」とは思い切って犠牲にするところを先に決めて、競合他社が数年かけても追随出来ないような大きく差別化したものにする。さらに、製造原価は従来機と比べて10%以上低減する、そういった考え方のもとに開発する新商品である。つまり、性能・品質はもとより、シェアも世界一をとる商品の開発ということである。こうして生まれた「ダントツ商品」は3年間で十機種を超える。その中には、当時好評を博した油圧シャベルなども含まれている。

 これら、攻守両論の改革が功を奏して、経営危機が起こった時期から比較して、売上高、営業利益とも翌年からV字回復し、4期連続の増収増益を達成することができたのである。

 坂根氏の行ったことは、総じて見ると、至ってシンプルである。それは「強みを磨き、弱みを改革」ただそれだけであった弱みを改革することは多くの会社でも実施されている。希望退職者であったり、労働時間の削減、経費の見直しであったり。ただ、それだけでは足りないということ。強みも磨いてこそ、その会社の必要性、優位性が確立し、改革が成功するのだということが伝わって来るケースであった。

 一方、強みを磨くためにはそもそも強みを知らないとならない。知るためには、自社、自分のことをもっと知る必要がある。そのためには、誰よりも自社や環境の事を考え、誰よりも自社と世の中を見て、多くのことを感じる必要があるのだろう。

 

  • 坂根氏から学ぶこと

 

A)海外事業の経営の舵取りは現地に任せる

 

 経営の現地化、というのは良く言われるけれども、失敗するケースが世の中では非常に多い。しかし、コマツ社は一貫して経営の現地化を志向し、成功を収めている。コマツでは、かねてより海外事業は現地の人にゆだねるという方針でやっているようで、生産拠点を持つ11カ国のうち、中国を含め7カ国で現地人がトップを担っている。なぜコマツ社が、経営の現地化がうまくいくのか。その背景も本書の中に書かれている。

 ・生え抜きの外国人を育て、その人たちに経営を任せる

 ・全て任せるわけではなく、意思決定のレベルわけをし、重要なものは本社で決める

 ・財務や人事などの機能を現地におき現地自立性を高める

といった取り組みを行うことで、現地最適だけでなく、コマツ社全体としての方針に沿った形で経営が推進された。日本本社が経営の全てを決めるわけではなく、海外本社を作り一括で対応するわけでもなく、あくまで絶妙な権限移譲を行うことで、中国現地での自立性が高まりながら、機動性も高まっていくことで本社依存度が下がり、経営の現地化がうまく形になることができている。「大きく任せる」ということをまさに体現した事例であり、そのための準備も長い間かけてやってからこそ成せる業である。

 

B)企業の競争力はコストの使い方で見えてくる

 

 前述の通り、コマツ社には「成長すればコストは吸収できる」という思想が根強く残っていた(当時の日本企業はほとんどそうだったのかもしれないが)が、坂根氏は成長のための投資と、事業運営のためのコストは別物として考え、徹底的にコストを削減する動きを見せた。その中でも特に「固定費」に対しては、徹底した考えがあったようだ。

 高すぎる固定費の本質は、成長とコストを分けて考えてこなかったツケであり、社内に蓄積されてきた「無駄な事業や業務」にあると仮説をたて、企業体質の改善のために「固定費」にメスを入れた。慢性的に赤字になっている子会社群や、それを許す体制・体質こそが、高い固定費を生み出す原因とした。固定費の改革は痛みを伴う。しかし、そこから逃げずに、関係者を説得しながら改革を実行するのがリーダーの役目だということを改めて理解することができた。事業戦略を考える上で「固定費はいじれないもの」という固定概念で議論が進む瞬間に多々出会ってきた。その瞬間に出会ったときに、自分だったらどう問いかけ・進言をすべきなのか、胸に手を当てて改めて考えてみた。

 一方よくある話ではあるが、企業あるいは国の財政再建でも、ひとつの組織の収益体質を改善しようとする際、最も陥りやすい誤りは、手っ取り早い「変動費の削減」を追いかけて、現場や外部に負担を押しつけることがある。コマツ社でいえば、研究開発費を削ったり、部品メーカーに値下げを要求することで利益を上げるといったやり方である。しかし、これでは結果的に何の解決にもならない。コマツの利益が一時的に上がったとしても、これは、将来の利益を犠牲にしているか、あるいは部品メーカーの利益を吸い上げているだけである。利益の付け替え、といっても過言ではない。その分、集中すべき投資があるならば別であるが、利益捻出のための変動費削減は愚行といっても言い過ぎではない。それよりも、組織にどっかり覆い被さり、組織としての活力を損ねる「固定費」にこそメスを入れることが、坂根氏の考えである。

 

C)基幹部品は国内で開発と製造を一体化し推進する

 

 海外展開を推進するコマツ社にとって、商品開発の手法にも特徴がある。「開発は日本に残すが、生産は人件費の安い新興国で」といった役割分担ではなく、「基幹部品は国内で開発と製造を一体化し推進する」といった体制をとっている。開発と生産の距離が拡大し、いままでのようなペースで技術革新を生み出すことができなくなることを避けるために、基幹商品については、国内で全て完結するような体制を敷いていた。本書ではその背景を「ものづくり日本を中心したいから」といったように記述があったが、私は他にも利点があると考えた。

 まず情報交換が容易になり、商品要望や異常値をすぐにレポート、そして改善につながる。この状態に対して、距離が生まれたり、レポートに手間が発生すると途端自体把握に非効率性が生まれる。事実がきちんと伝わらないため、改善点がわからず、環境変化に対応できない、確信が生まれづらくなる、ということは、まさに今働きながらも感じている。

 規模が大きくなろうとも「優先すべきことは何か?」を常に見定めることで、私自身も正しい意思決定をしていきたい。

 開発については、もう一点の学びがある。商品開発において、差別化はよくいうがその差別化を作る上で「社長がまず他社に負けてもいいところを決めてこそ、尖った商品を開発できる」という姿勢である。何事も競争相手と比べたうえで、それより「少し上」を目標にするのではなく他は劣っても良いので、必要だと思う、自分たちができる尖った商品開発をすべきである、というのだ。

 坂根氏は社長になると、営業と開発の責任者を呼んで、「いままでのような開発の仕組みでは、これまでの常識をくつがえすような突き抜けた商品は出てこない。新商品の開発にあたって、営業と開発は、まず何を犠牲とするかで合意しろ」と指示を出している。ライバルに負けてもいいところ、あるいはライバルと同じぐらいでいいところをあらかじめ決めておき、その分、強みに磨きをかける。

 どこを犠牲にしていいのかを社長が言わないと、投入資源が生まれてこない。この姿勢は、最近、自分が担当する事業戦略の議論場面でも出会った話であり、とても考えさせられた。裏を返すと意思決定を間違えると、優位性であった要素が毀損されることになったり、逆に競合にとって差別化されるポイントを与えてしまうことにもなりかねない。何を大事にするのか、究極的に考えている社長にしかできない犠牲の指示であることを、坂根氏や自社の判断に対して感じた。

 

D)強みを磨くことが最も重要である

 

 ダントツ・プロジェクトも、コマツウェイも、強みを一段と磨いて、さらに飛躍するための試みとして描かれている。私も感じるが、日本人は弱みの議論が大好きで「自分の企業はここが弱い」「日本という国はここが弱点」ということばかり話している。それは教育の場面でも同じである。飛び抜けた人よりも、万能な人を賞賛する帰来がある。しかし、弱みに注目するだけでは何も生まれない。

 自社だけでなく、経営者としての自分の強みを理解し、その強みを磨く続けることで、競争環境において戦い続ける企業となり、新たしい価値を生み出すきっかけにもつながってくる、コマツ社の話を聞くことで、その考え方にとても共感することができた。